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コラム

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グローバルビジネス・コミュニケーションの秘訣 ドイツ編

グローバルビジネスの成功のためには、各国のビジネスコミュニケーションの特長を知っておくとスムーズに対応できます。ドイツ企業やドイツのお客様と各種ビジネスに携わり、また5年以上ドイツに住んだ経験をもとに、ドイツビジネスのコミュニケーションの秘訣の一端を、皆様方にご説明します。ドイツは、契約社会・形式主義であることを理解しておきましょう。

ドイツビジネスのコミュニケーションの秘訣

ドイツ企業やドイツのお客様と各種ビジネスに携わり、また5年以上ドイツに住んだ経験をもとに、ドイツビジネスのコミュニケーションの秘訣の一端を、皆様方にご説明します。ドイツビジネスの成功に導くためには、契約社会であることを理解しておきましょう。

言うべき事は言う!

日本人は相手を思い遣る気持ちが強過ぎるためか、えてして自己主張を中途半端に遠慮して言い控えたり、ヤンワリと婉曲な表現で抑えてしまう傾向があります。個人的にはこれは奥ゆかしく美しい美徳だと感じていますが、残念ながらドイツ人相手には決して通じません。
ドイツでは、言わなければ負けです!言わなければ、それは最初から何もなかったのと同じ事なのです。その場で何も言わずに、後になってから「そこは察して頂けると思った」とか「言わなくても分かり切った事では」と言い訳しても、そんな後出しジャンケンは決して通りません。
ビジネス会議の席では、自分・自社の立場を徹底的に&明確に主張する事が求められます。これは、別に無茶なゴリ押しをしなさいと助言している訳ではなくて、腹を括って言いたい事を残らずハッキリ言うだけの話です。その際には、あんまりダラダラと余分な長話を続ける事は避けて、あくまでも自分の言いたい事(目的)に焦点を絞って論理的に話しましょう。
ただし一つご注意しておきますが、ハッキリ言ってドイツ人はすこぶる頑固で自己主張が強いのです。当方が実にモットモな正論を理性的に述べていると思っても、何やら無茶な理屈をこねてガンガン文句を言ってきます。その勢いに負けてついつい相手のゴリ押しを一度認めたら、決して後で引っ繰り返す事は出来ませんのでご注意下さい。

決めたら書く

ドイツ人は契約や規則が大好きだ、と良く言われます。言葉を変えて言うと、ドイツ人は書き物で「これこれしなさい」「これこれが決まりです」と規定された事を非常に重視します。ちょっと文化論(!)的な言い方をしますと、ドイツなどの欧米諸国はいわゆる「契約社会」なのです。ですから、ビジネスの大切な決定事項や制約条件などは忘れずに全て書き物にまとめて、相手と内容を確認してお互いに署名する事を心がけましょう。ついでに申しますと、署名者にその課題に対する決定権限がないと後で困りますので、場合によっては会社からのVollmacht(委任状)が求められます。
決める際の注意点は、決して日本人同士のように「阿吽(あうん)の呼吸」を前提にせず、当たり前の点も省略しない事です。たとえ馬鹿らしいとは思っても、後で誤解のないように詳細な点まで残らず文書化しなければいけません。書いてなければ、それは初めからなかったのと同じ事です。

約束したら守る!

そんな事は当たり前じゃないか、と簡単に思うのは極めて危険です。日本のビジネス風土では、たとえ契約書などで取り決めた重要事項でも、実際にはかなり緩やかな場合が多いのです。たとえば、契約途中で何か大きな問題点が発生して期限・約束が守れなくなっても、相手に泣きを入れて誠意を持って相談すれば、延期・変更などを認めてもらえる可能性が多々あります。
ドイツでそんな甘い対応を期待するのは大間違いです。一度約束した事は、とにかく何が何でも守らなければなりません。そうしないと、すぐに契約破棄されたり訴えられたりする恐れもあります。これには良い点もあって、仕事相手に対しても契約の履行を強く要求出来る訳です。逆に、深く考えず相手のミスを許したり簡単に変更を認めたりしたら、後に大きな禍根を残します。たとえそういう風に優しくしても、相手から後で同じ対応を期待するのは大間違いです。

時間は正確に

一般にドイツ人は時間に正確で、「Puenktlichkeit ist alles.(時間厳守が全てだ)」という有名な表現まであります。これはビジネスをする上では非常に有り難い事で、決められた刻限から相手との打合せを開始する事を期待出来ます。また製品・部品の納期などに関しても、一般論としてはかなり守られています。
言うまでもなく本件もお互い様ですので、当方も約束した時間は必ず守る事が求められます。日本では、お客様と打合せの約束をして電車が遅れて時間に間に合わなくても、後で「交通事故があったようで」とか言い訳すれば済むと安心していませんか?ドイツではそうした後付けの対応は非常に印象が悪く、それで仕事や契約が没になる恐れさえあります。とにかく事前に何とか相手と連絡を取って、時間変更などをお願いして了解を取る必要があります。

公私の区別をつける

ドイツ人は朝早くから良く働きますが、夕方の終業時刻になるとサッと仕事を切り上げて帰宅します。たとえ仕掛り中の作業が目の前にあってもその点は完全に割り切って、今日中に無理して完成させようなどとは考えないようです。時として、日本の企業では残業を前提として無理な納期を約束する事もありますが、ドイツではそんな無茶は決して通じません。
仕事時間が終わった後は、家族と楽しむ大切なプライベート生活で、日本の企業みたいに「ちょっと一杯」などという文化はありません。飲兵衛の私としては、気軽に飲みに誘う事も出来ないのがストレスでした。日本だったら社員厚生福利だと見なされる(かも知れない)、会社ぐるみの社員慰安会や社員旅行もまず聞きません。ただし営業レベルでは、仕事相手との宴席がない訳ではありません。
ここで脱線ですが、旧・東ドイツ(DDR)地域の旧・国営会社では、公私の区別がかなりいい加減だったようです。社員の誰かが誕生日を迎えると、仕事時間中に堂々とお祝いパーティーをやったりしていたと聞きました。社員は沢山いますから、殆ど毎週パーティーをしていた勘定になります。葛飾生れ・育ちの人情派の私は決して嫌いではありませんが、「これでは西側との競争力などない」と怒られたそうです。

ドイツ流を理解する

それぞれの国には、歴史に根ざしたそれぞれ独自の文化があります。ドイツのビジネスを問題なく順調に進めるためには、ドイツ&ドイツ人の文化面についても良く理解する気持ちが大切です。ローマではありませんが、「ドイツに入ればドイツに従う」くらいの割り切りで参りましょう。
私がドイツでしばしば感じたのは「形式主義」です。これは、学歴、肩書、役職、家柄などを大層重視するという一面と、ビジネス実務上でも規則第一で決まり事を厳密に守る一面がありました。何だか大袈裟で面白いなあとは思いますが、別にそれが良いとか悪いとかは必ずしも言い切れません。私は、ドイツ人が大事にしている価値観をありのままに認めて、一外国人が変に批判的な物言いをしないように気をつけました。
また脱線ですが、それで思い出すのが「封蝋(ふうろう、Siegellack?)」です。国同士の条約などの重要な公式文書では、溶かした蝋状の物質を垂らして印章で封をする手順があるようです。ところがドイツでは、それほど大した事がない(失礼!)と思われる契約書などでもこの封蝋を使ったり、時には工場の出勤簿みたいな日常的な文書にも大真面目な顔で封蝋をする事がありました。さすがに、これは大袈裟ではないかなあ、という気が強くしたものです。もちろん、心の中で「異文化、異文化」と呟いて大人しく黙っていましたが。

日本とドイツの似ている点

ここまで読んで下さった読者各位は、「ドイツとのビジネスは面倒臭そう」という印象を抱かれたかも知れません。いえいえ、決してそんな事はありませんよ。良く言われる事ですが、日本人とドイツ人は驚くほど似通った所が沢山あります。たとえば、真面目、勤勉、倹約精神、親切さ、礼儀正しさ、正直、など。思いがけない場面・相手から思いもかけない反応を受けると、驚くと同時に仲間意識を感じて嬉しくなります。
ドイツとビジネスを進める上では、色々な仕事の考え方・進め方の違いに注意する事はもちろん必要です。しかしそれ以上に、思わぬ面で日本と似た点を見つける楽しさを是非とも経験して下さい。

佐野 優治 氏
佐野 優治 氏
ITコンサルタント
キヤノン、東洋エンジニアリング、YMP-iを経て現在はITコンサルタントをしています。主な経験分野は、電子機器制御、ラボオート(LA)、連続プロセス制御・監視、バッチプロセス制御・監視、自動車製造ライン、製造管理システム(MES)、医薬製造向け現場連携・SCADA、生産管理システム、など。根っからの「現場好き人間」で、設備⇔システム融合をライフワークとしています。
著者メールアドレス: sano.yuji@mbm.nifty.com (ご意見、ご感想などお気軽にお寄せ下さい。)