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コラム

グローバル

グローバルビジネス・コミュニケーションの秘訣 アメリカ編

グローバルビジネスの成功のためには、各国のビジネスコミュニケーションの特長を知っておくとスムーズに対応できます。
私は永年にわたり、アメリカ(米国)の企業やお客様と各種ビジネスに携わった経験を踏まえ、アメリカでのビジネスコミュニケーションの秘訣の一端を、皆様方にご説明します。

アメリカビジネスのコミュニケーションの秘訣

私は永年にわたり、アメリカ企業やアメリカのお客様との各種ビジネスに携わってきましたし、またアメリカ訪問・滞在経験も多数あります。
そうした経験から得たアメリカビジネスのコミュニケーションの秘訣の一端を、皆様方にご説明したいと思います。

契約書の作り方

アメリカはドイツ以上の契約社会で、オマケに大変な訴訟社会でもあります。契約書・議事録などは、やり過ぎと思うほど注意深く取り扱わないと危険です。

皆様方がビジネスでアメリカの会社と契約交渉すると、早い段階で相手側から契約書案が提示される場合が多いのです。大抵は自社標準フォームだと主張されますが、これが大変な曲者でそのまま受け入れたら大損害を蒙る恐れがあります。簡単に言うと、「自社に都合の良い事しか書いていない」のです!日本の企業みたいに、最初から相手の立場も思い遣って双方に公平な条件を考えて、などという奥ゆかしい考え方など微塵もありません。それに対して、「何だか勝手な事ばかり言っているけど、実務の上で話し合えば分かり合えるだろう」などと甘く考えたら、その時点でもうアウトです。

とにかく細かい文章の全てを神経質に掘り下げて、自社の利益にならない(可能性がある)条文はトコトン相手側に趣旨確認のうえ、一々しつこく修正提案する必要があります。その際は単に要求するだけでなく、ちゃんと正当な理由も添えて申し立てる事です。ご自分が英語力や読解力に自信がない時は、社内の法務部門や社外の専門家の助けも借りましょう。

皆様方に有利な条件で落ち着けば最高ですが、少なくとも「双務的(bilateral)」つまりお互い様になる事を目安にします。一つだけ申しますと、「知的所有権(Intellectual Property Right)」は特に要注意で、下手をすると会社が大損害を蒙ります。一番良い戦略は、「自社に都合の良い契約標準フォーム」をあらかじめ用意しておいて、先に提示する事ですが...。

付合いレベルと名前の呼び方

「アメリカ人は率直で親しみ易く簡単に友達になれる、だけど本当に心を許し合うのは難しい」とは、世の中でしばしば言われる事です。アメリカ人との付合いレベルが「知合い/同僚⇒友人⇒仲間」と進むに連れて、確かに信用・信頼がかなり違ってくるような気がします。ただし、これは飽くまでも感覚的・経験的なものに過ぎませんので、具体的に何がどう違ってくるのかと聞かれても返答に困ります。アメリカ人と仲良くなるにはどう対応すれば良いのかというと、私のような不器用な日本人としては「誠心誠意」が一番良いのではないでしょうか。

より深い付合いを求めるための一方法は、自分の側から率直さをモットーにしてどんどん攻め込んでいく事です。せっかく相手側が色々とヒントを出してくれているのに、それに甘えて元のままの態度・言葉に止まっていたら勿体無い話です。一つのキッカケとして、なるべく早く相手と名前(First Name)で呼び合う関係を作り、会話の中でもセッセと名前を繰り返す戦術があります。初対面で「どういう風に呼び合いますか?」と尋ねるか、もっと直裁に「私をYujiと呼んで下さい」と申し入れて様子を見ては如何でしょうか。

もう一つ、意外な注意点は「連絡を絶やさない事」です。日本のビジネスマンがアメリカ人(を含む外国人)に嫌われる理由の一つとして、何か興味・関心があって問合せ/資料請求/企業訪問しても、その後のフォローが全くない事が挙げられます。そうすると、相手から真面目に取り組む気がないと判断されて、後でまた必要が起きてやり取りする場合にギクシャクします。初めのうちは「やあやあ元気?」でも構いませんから、とにかく定期的に繋いでおく事が大切です。

宣伝文句の真実

私は一時、某特定分野の海外製パッケージソフト導入に携わっていました。インターネットその他でソフト開発元(=主にアメリカ企業)を探しては、有望そうな所に問い合わせ製品調査・評価を行っていました。その結果、アメリカの会社は得てして未完成品のソフトでも堂々と宣伝する(らしい!)事が、次第に分かってきました。

カタログ情報やメールやり取り上は、立派な機能・仕様が満載で世界中に導入実績が山のようにある、としか読めません。しかし、大喜びして業務提携のためより詳細に調べたら、実態は殆ど枠組しかなくてまだ開発途上の半製品だった、という話の繰り返しでした。驚くのは、実は半製品だったという事実が明白となっても一向に恐れ入る訳ではなくて、「ぜひ一緒に売り込もう」と熱心に押して来る事です。しかし、日本のお客様はソフト品質・実績を大いに重視しますから、そういう大胆な売り方はなかなか成り立ちません。

ついでに申しますと、たまたまパッケージを採用して下さるお客様を見つけて開発元に連絡しても、システム開発スケジュールには大いに要注意です。開発元は完成時期を簡単に約束するものの、それが守れずにどんどん延びてお客様に迷惑をおかけする例が多かったのです。

とここまで書き進めて、ふと「日本の会社は果たして本当に違うのだろうか?」と急に心配になった私でした!

仕事が出来る人間探し

さて、いよいよアメリカの会社と詳細な技術仕様の打合せが始まりました。いそいそと提携先に出かけると色々な担当者が次々と登場しますが、どうも事前の意見交換から期待していたようなバシッとした議論が出来ません。何だか話の筋を理解していないような人ばかりで、次第に不安に苛まれてきます。ところが、ここで何気なく登場した若者(としか見えませんでした)が突然、私達の期待を大きく上回る高レベルの話を始めたのには驚きました。それまでは意味不明の断片的なメモ書きしか出て来なかったのに、ある日急に見事な出来の大ドキュメントが提示されたのにも驚きました。

アメリカでは、こうしたビックリ場面を何度となく経験しています。私がお付き合いしたアメリカの会社は、大部分の「平均的な人材(失礼!)」とほんの一握りの「天才」とから構成されているようです。その状況は国際学会でも全く同じです。ある年の年次総会講演の席上、日本から同行された大学の先生がいみじくも「これは(玉石混交でなく)玉石石石ですね」と仰った通りです。日本の会社みたいに、ある年月その業務を担当している人間であれば誰でも相当なレベルに達している、と自然に期待する事はとても無理な相談です。それに、どうやら技術の伝承もそれ程うまく進んでいないように見えます。

ですから、限られた出張期間を出来る限り有効利用したい私達にとって一番重要なミッションは、いかにして仕事が出来る人間を探すかに尽きます。これがなかなか難しくて、決して技術部門の責任者や最先任技術者などという訳ではなく、本当にその辺にいた目立たない若者かも知れないのです。

ところが、平均的な人材だらけのアメリカは日本その他の諸国を尻目に、ISA/ISO/ANSI/IEC等の国際標準規格活動でいつも大活躍し、また様々な革新的な製品を出し続けています。優秀な人材が多い日本に何故それが出来ないのか、その理由が今一つ分かりません。

転職天国の光と闇

アメリカは転職が非常に盛んで、「転職回数が多い人ほど優秀で評価される」とは良く聞く話です。自分が所属する企業に対する執着(愛社精神?)が希薄なのは確かで、少しでも今より良い待遇の企業があれば割と簡単に移る傾向はあります。会社側としても、優秀な人材を簡単に獲得出来て大歓迎でしょう。個人の能力が正当に評価される、実にダイナミックな社会ではありませんか。

しかし、それではこれは良い事ずくめの仕組みなのでしょうか?余りに転職回数の多い社員は「いつまた他所に移るか分からない」という疑惑の眼差しで、周囲から見られる覚悟がいる事でしょう。とりわけ会社側にとっては、重要課題の開発責任者がいつ辞めるか分からない、というのでは堪りません。

そういうアメリカのビジネス風土では会社側も防衛策として、いつ誰が退社しても仕事に支障が出ないよう、文書化・標準化などに必死に注力します。少し皮肉な言い方ですが、それこそがISO9000に代表されるドキュメンテーション社会(←私の造語です)の根源なのかも知れませんね。それに、日本のような終身雇用制度が完備されていない転職天国のアメリカでは、裏を返せば会社側が用無しと見做した社員を解雇しやすいのでは?つまり、会社と社員が常に「いつ首を切るか」「いつ辞めてやるか」の攻防を繰り広げている、極めてストレスに満ちた環境なのだと思います。

そうしたアメリカの会社と継続的にビジネスを行うためには、私共の方ではたとえ担当者が急にいなくなっても差し支えないよう、日頃から万全の用意を備えておく心構えが求められます。

愛国心について

戦後の日本社会では、「愛国心」という言葉は一種のタブー扱いされているように感じられます。それに対して、アメリカでは左右どんな政治的信条を持っていようが、愛国心だけは譲れない最低限の条件であるようです。「アメリカ政府は大嫌い」「アメリカ外交も大嫌い」と公言する事は構わなくても、アメリカそのものを愛する気持ちだけは譲ってはなりません。星条旗への敬礼、国歌(準国歌)の唱和、合衆国憲法の尊重などの場面が、日常生活の中にごく自然に溶け込んでいます。それを見る度に、日本の風潮に慣れ親しんだ私は何とも言いがたい違和感を感じていました。

あくまでも私見ですが、アメリカ人と愛国心の是非について議論したり評価したりする事は、決してやらないようお勧めします。とりわけ、英語で話す場合はえてして言葉や表現が過度に直裁になり勝ちです。つい強過ぎる言い方になったり不適切な用語を使ったりして、気まずい雰囲気になる恐れがあります。たとえば、悪気なくアメリカ人をYankeeと呼んで殴られた人がいるそうですよ。たとえパーティーの雑談でも、政治・外交・人種などといった微妙な話題は避けた方が安全です。

国際化と英語力について

多くの方が漠然と「国際派になりたい」という憧れを抱き、その前提条件として英語力の向上を目指しています。その一方で、アメリカを初めとした諸外国とのビジネスでの実務において、誰でも自分の英語力の低さに不安を抱きがちです。学校での英語授業だけでは不十分だという事で、多くの社会人が仕事の後で英会話教室に通っています。また最近では、小学校から英語教育を始める新制度や、社内での会話・文書を全て英語化した会社なども、大いに話題になっています。

しかしながら、私の(一応!)豊富な海外経験から申しますと、その考え方は少し違うのではないかという気が強くします。真の国際派を目指すのでしたら、次のような逆説的な条件を満たした方が良いのではないでしょうか?
1(英語の勉強よりも)日本語をシッカリ勉強する事。
2(海外の情報よりも)日本や日本人について良く知る事。
3(自分の意見を主張するよりも)自分自身の考えを持つ事。

ただし、本件はすでに何回か別の機会に書いているため、ここでは詳細は省略します。

ドイツビジネス・アメリカビジネスの共通項

本コラムは、私が以前書いたドイツビジネスに関するコラムと大分構成が違っています。それではアメリカとドイツのビジネス環境は全く違うのかと言うと、いえいえ決してそんな事はありません。たとえば、ドイツビジネス編の「言うべき事は言う!」「決めたら書く!」「約束したら守る!」などは、殆どそのままアメリカビジネスにも適用されます。それ以外の章についても、多少の程度の差はあれ似たような傾向が見られます。

出来ましたら、両方のコラムを読み比べて似た点・違う点を考えて頂くのも、きっと一興ではないかと思います。

佐野 優治 氏
佐野 優治 氏
ITコンサルタント
キヤノン、東洋エンジニアリング、YMP-iを経て現在はITコンサルタントをしています。主な経験分野は、電子機器制御、ラボオート(LA)、連続プロセス制御・監視、バッチプロセス制御・監視、自動車製造ライン、製造管理システム(MES)、医薬製造向け現場連携・SCADA、生産管理システム、など。根っからの「現場好き人間」で、設備⇔システム融合をライフワークとしています。
著者メールアドレス: sano.yuji@mbm.nifty.com (ご意見、ご感想などお気軽にお寄せ下さい。)