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コラム

企業変革

生産形態別にみるデジタルトランスフォーメーションの進め方

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2020年12月28日に経済産業省が発表した『DXレポート2(中間取りまとめ)』によれば、DXへの取り組み状況は「未着手」や「散発的実施」などの企業が9割を超えていると報告されています。では、DXを進めるためには何をどうすればよいのでしょうか?
本コラムでは、製造業に絞って、生産形態別に投資の優先度や選定の考え方をお伝えします。
また、DXの実現を後押しするシステムのあり方についても解説します。

コロナ禍で「一気にデジタル活用が進む」は本当か?

新型コロナウィルスが猛威を振るい、人類を恐怖に陥れた2020年が過ぎ、新たな年を迎えました。2020年はさまざまなモノやコトが変化しました。変化せざるを得なかったという表現が適切ではないでしょうか。

出社できない状況でも業務を回すため、リモートでどうやるのかということに工夫を凝らし、デジタル活用を推し進めた企業も少なくないと思います。この期間、新聞などのメディアが「企業の経営層がデジタル化やデジタルトランスフォーメーションの必要性を再認識し、一気にデジタル活用が進む」と記事化し、筆者も大きな期待をしていた一人です。

しかしながら、実際はそう単純な話ではなかったようで、業務プロセスを大きく変更・改善・見直しすることなくアナログの業務をデジタルに置き換えただけの取り組みが多かったと理解しています。ペーパーレス化、ワークフローの電子化などによるリアルな承認印の省略などがその代表的な取り組み例です。

 

『DXレポート2』に見る日本企業のDX推進の停滞

2020年12月28日に経済産業省が発表したデジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会の中間報告書『DXレポート2(中間取りまとめ)』によれば、 同省が作成したデジタルトランスフォーメーション(DX)指標で大企業など約220社の自己診断の結果、2020年10月時点で全体の平均がレベル3に満たない「未着手」や「散発的実施」などの企業が9割を超えていると報告されています。

類推するに、コロナ禍の危機的状況をデジタル化促進の好機と捉えることは、かなり難しいようです。そもそもコロナ禍で売上や利益が減少し、投資に回せるお金が無ければデジタル化をしたくてもできないからでしょう。政府は、2021年度税制改正にはDXへの投資額の最大5%を法人税から控除できる制度を盛り込むとのことですが、大きな促進剤にはなりえないと考えます。今、まさにDXに取り組むのか、否か、経営者の覚悟が試されているのではないでしょうか。

では、DXを進めるためには何をどうするのか?

 

現在地を知ることから始める

「会社のビジョンやミッションから照らした目指す事業の姿(DX戦略)があり、それをステップ・バイ・ステップで進められる組織と人材を整備する必要がある」というような言葉を有識者からよく聞きます。確かに理想はそうでしょう。しかしながら、DXレポート2に記載のように実践できているのは大企業の一部のみで 、多くの企業は、どこを目指すのかをしっかり考えきれていないのではないかと憂慮しています。
まず、自社がどの地点にいるのかという現状把握が必要です。

DXのはじめの一歩として、何を実現して、どのような効果を得たいのかを決める必要があります。

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生産形態別にみるDXへの投資と狙うべき効果

弊社ビジネスエンジニアリングは、設立以来、システム構築を通して製造業のお客様のビジネス推進のご支援をしてまいりました 。ここからは、製造業に絞って、生産形態別に投資の優先度や選定の考え方をお伝えしたいと思います。

計画・量産型の製品の場合

自社で見込生産品や計画生産品が主力製品(コア)である場合、製造の視点では、より効率的に生産し、不良を低減し高い歩留まり率で、スループット(有効生産高)を最大化していく必要があります。

下記の式により各要素に分解できます。

スループット(有効生産高)=(ライン稼働時間)÷(サイクルタイム)×(歩留まり率)

式からわかる通り、増やすのは、ライン稼働時間や歩留まり率であり、反対に減らすのはサイクルタイムということです。ただし、闇雲に生産しても在庫の山を築いてしまうのであれば本末転倒です。

見込生産品の場合、製造のデジタル化に投資して、今より効率化を狙うのが良いのか、需要予測やサプライチェーン計画の高度化に投資して、販社在庫を適正な水準にすることの方が利益を得られるのか、取り組みの優先を決める必要があります。生産性が高止まりしている国内工場において更なる効率化がどの程度期待できるのかを正しく精査し、スマートファクトリーという言葉に踊らされず、目的を見失わないことが重要です。

個別受注設計型の製品の場合

発電プラント、船舶や鉄道など大型輸送機、EPCと呼ばれるエンジニアリング産業など、顧客の仕様に基づき設計を行い、都度調達し組み立てていくような個別受注品の場合、見込生産品とは全く異なるアプロ―チとなります。

長い期間を有し、各プロセスの中で最も重要な役割を果たすのが設計です。必要以上の仕様や材質を取入れて設計していたのでは、コストは増え想定の利益が見込めません。反対に、全く余裕のない設計では品質問題を引き起こしかねません。また、個別仕様に従い製造するため、作業品質の低下もリスクとなります。また設計中に顧客や調達先都合により仕様変更が度々発生するため、設計と製造のシームレスな連携がポイントとなります。個別受注品を主力とするのであれば、設計と製造のプロセスをデジタル化により可視化し、データを活用した設計・製造連携DXを優先すべきと考えます。

下図は生産形態別の特徴を図示したものです。

生産方式による特徴

例えば、在庫を減らすため、見込型から受注組立に生産形態自体を変更し、QCDを維持したまま顧客ニーズに合う製品の生産をDXにより実現できれば、大いなる競争優位を築けます。つまり、ドイツのIndustrie4.0が提唱している「マスカスタマイズ」は、製造業の競争力を一気に塗り替えてしまう要素があります。そのためには、設計-製造のプロセス連携とデータ活用したシミュレーションなど、プロセスの変革といくつものデジタル化のステップを段階的に踏んでいくことになります。

まとめとして、下図にサプライチェーンとエンジニアリングチェーンの各プロセスにおいてDXで実現したいテーマの例を示してあります。サプライチェーンとエンジニアリングチェーンのとデータ利活用

 

「サービスをビジネスに」は小規模からでも始められる

また、製造業のDXの本質として挙げられるのが「スマートサービス」とか「コトによる価値」と呼ばれる、モノではなくサービスをビジネスにするという取り組みです。小松製作所様の「Komtrax」(https://sanki.komatsu/komtrax/)が世界的に有名な成功例です。ただし、全ての業種・業態で取り組めるわけではなく、顧客ニーズの存在とそれに対価を払うという観点でビジネスが成り立つかの調査が必要です。

一般的に、機器や設備が高価で、寿命が比較的長く、突然停止すると多大な損害を被るといった条件が揃った場合、 サービスをビジネスにするのは考えやすいでしょう。条件さえ合えば、企業規模によらずビジネス化できるので、中小の製造業も積極的に取り組めるDXのテーマだと考えます。実際のところ、中小企業様でDXのコンサルテーションを進めていくうちに、生産量が多くなかったり、反対に量産工場で自動化がかなり進んでいたりして、更なる効率化は投資対効果が望めないという結論に至ることもあります。この場合はスマートファクトリー化ではなく、スマートサービス化に資源を投入して価値創出を目指すなど、外部との連携に目を向けるべきと考えます。

 

DXの実現を後押しするシステム連携

WithコロナからAfterコロナになったとしても、米中貿易摩擦などの地政学リスクは減らず、不確実な世界は継続するでしょう。 日本の製造業は、グローバル化を進展させた規模を追うビジネスではなく、市場の囲い込みや顧客深耕型が進み、サービス化による価値創造はもはや必然となると予想しています。その価値創出にデジタル化が必須であることは言うまでもありません。
また、DXの取り組みを進めていくにつれ、アナログ業務をデジタル化するために、さまざまなITツールやアプリケーションを評価し、導入していくことになります。今や特定業務に特化した多種多様なデジタルサービスがSaaS上で提供されていますので、業務のデジタル化は大きな投資をせずとも可能になりました。全体のプロセスを正しく理解し、現状業務をそのままデジタル化するのではなく、適宜、業務改革を進めながら、デジタル化のメリットを活用するプロセス、もっと言うと、デジタル化に最適なプロセスに変更していくことが成功の秘訣です。

DXを実現するためのITシステムは巨大なプラットフォームだけで実現できることはなく、いくつものSaaSと既存システムなどを連携・統合していく作業が必要です。そのためにはSystem of Systems の概念を理解し、細分化されたシステム同士を繋げられる技術が重要です。DXの成功例であるUberもAirBnBも他社が提供しているシステムを繋ぎ合わせて実装しています。また新しいサービスを追加する場合も対象となるSaaSを組み合わせて提供しています。企業にも同様なことが当てはまり、不確実性が高まる世界でビジネスがいつ変化を求められるか分からず、その度にITツールを自社開発していては競争に勝てません。ビジネスに応じてITシステムを変えていくダイナミズムを組織に浸透させていくことで本当のトランスフォーメーションが実現できると考えます。

ビジネスエンジニアリングでは、製造業のお客様のニーズに満たすため、様々なアプリケーションを組み合わせて、DX推進を支援しています。

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本稿でご紹介しましたサプライチェーンとエンジニアリングチェーンのデジタル化についてはこれまで同様にご支援させて頂くと共に、収集されたデータを活用したデータチェーンを加えたトリプルチェーンをコア領域として、お客様のDX推進に努めて参ります。

 

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志村 健二
志村 健二
1990年 東洋エンジニアリング株式会社に入社。化学プロセス設計と制御設計を担当。 1999年 IT会社として独立したビジネスエンジニアリング株式会社に異動。 以後、製造業の基幹システムの構築に携わる。 2012年 ビックデータ関連の新規事業の開発ため、新組織を立ち上げ。 IoTを活用した「ものづくり」のデジタル化を推進する事業を牽引し、グローバル市場においても確実に成長させてきた。化学プロセスの専門性とIT/IoTの導入経験をもとに、ものづくりにおけるデジタル変革を“現場”と“経営”の双方の視点で支援している。