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5Sによるサプライチェーン業務改革!!(その3) 市場変化に強い企業体質作り

今回は、「5Sによるサプライチェーン業務改革!!」の最終回として、部門間から得意先、仕入先にわたるサプライチェーンを対象に、前回説明した「情報の5S」による業務改革市場変化に強い企業体質作りについてお話します。

サプライチェーンとは

改めて、サプライチェーンとは、原材料の供給者から最終需要者に至る一連の業務プロセスを指します。このサプライチェーンを一つのビジネスプロセスとしてとらえ直し、企業や組織の壁を越えたプロセスの全体最適化により、企業の付加価値を高める戦略的な管理手法をサプライチェーン・マネジメント(以下、SCM)と言います。

図1 サプライチェーンの定義<図1 サプライチェーンの定義>

情報のSCM

図1は、サプライチェーンの定義を表したものです。サプライチェーン内を行きかうものは、物と情報です。一般的にSCMと言えば、物の流れを対象に行うものです。例えば、製造部門のボトルネック改善による工場全体のスループット改善、物流業務のアウトソーシングによる効率化(3PL※サードパーティー・ロジスティクスなど)や物流拠点の集約よる物流改革などが上げられます。
これに対して、情報のSCMとは、組織間のコミュニケーションにフォーカスを当て、コミュニケーション効率を上げることにより、プロセス間の情報のスループットと組織の生産性の向上を目指す管理手法です。
例えば、前回コラムで紹介した「情報の5S」をサプライチェーンに適用することにより、コミュニケーションの改善が実現できます。

サプライチェーンにおける情報の5S

  1. 情報の5SによるSCMの説明の前に、製造業のもの作りにおける組織間の連携について、少し考えてみます。まず、製品企画から試作段階では、日本の製造業の強みと言われている「すり合わせ」によって、その役割に応じた個人が組織横断的に緊密なコミュニケーションを図ることにより、質の高い製品を作り出しています。さらに、量産段階では、サプライチェーンにおいて、納期順守、コスト低減および品質確保を実現するため、営業/調達/設計/生産管理/品質管理等の部門はもとより、仕入先や協力会社も含む組織間の、人対人のコミュニケーションによる調整力で対応しています。
    一方、こうした状況は、一連の業務プロセスをコントロールしている間接部門の生産性の低さの原因にもなっており、企業の直接部門である製造部門や量産工場が海外に移転する中、国内に残ったコントロールタワーとしての間接部門の生産性向上が急務となっています。
    そこで、情報の5Sを適用することにより、業務自体の棚卸から整理・整頓・共有を実現し、さらに間接部門の業務の本質である多様なコミュニケーションを効率化することにより、サプライチェーン全体としてのスループットが増大します。
    また、生産管理やPDMなどの基幹システムに収まり切れない不定形な情報を整理し、組織として評価、管理できる情報として蓄積することにより、その調整プロセス自体の改善も行うことができるため、「すり合わせ」の見える化と改善が実現できます。

  2. 改善例①

    • 次に、情報の5Sの具体的な実践例を紹介します。
      図2-1は、受注生産形態における納期調整と生産計画調整の業務です。
      まず、営業が得意先からの納期変更依頼を電話やメールで受け、納期調整の可能性を電話などで生産管理に問い合わせます。次に、生産管理が中心となり、製造工程の負荷状況など加味したうえで、納期変更した場合の影響を評価しつつ、購買に部材調達や外注先の調整を依頼します。
    • 図2-1 納期変更業務(改善前)<図2-1 納期変更業務(改善前)>

      システムとしては、生産管理システムおよび各種連絡・承認のためのワークフローも導入済です。ただし、この納期調整のような業務は、事前に製造現場や購買担当と電話や現場での打ち合わせにより調整を行い、影響する他のオーダーの計画変更から外注調整までの過程は、各部署で連絡、確認、代替案の提示など、人対人のコミュニケーションによる調整作業が主となり、全てシステム外で行われます。一連の調整作業の確定後に、はじめて納期変更依頼のワークフローを流し、統制上の記録を残し、生産管理システムに確定した回答納期や計画変更を登録します。
      こうした中、ここ1、2年で多品種化も進み調整業務が複雑になり、さらに顧客からの依頼頻度も多くなってきたため、生産管理他関係部署の業務としてもかなり逼迫してきました。

      そこで、まずは、情報の5Sの視点で、表1のような改善活動を実施しました。ポイントは調整業務の棚卸と分析により、従来漠然と実施していた業務を明確にし、ルール化できる項目を定義したことです。この場合のルールは、顧客に対するサービスレベルとコスト、スピードとコスト、代替案による対応など全体最適を意識した多面的な視点で利害関係者(顧客、部門間、協力会社)との調整が必要です。

    • 表1 情報の5S視点による改善活動評価<表1 情報の5S視点による改善活動評価>
  3.  
    • 情報の5Sで情報の整理やルールの定義を行った後、コミュニケーション方法や情報共有などの実現方法としてのコンピュータシステムの活用とその運用ルールを検討しました。
      具体的な施策としては、従来のシステムで管理できていなかった情報をExcelファイル上で共有することにより、一定レベルのコミュニケーションの手間を省き、調整状態を全部署で認識することが実現しました。さらに、データ連携ツール(EAI)を組み合わせることで、Excelのセル単位の更新や項目のステータスに同期して電子メールの送信や生産管理システムのデータベースの自動更新が行えるようにしました。これにより、電子メールでのリアルタイム通知による迅速なコミュニケーションの実現と、システム更新の二度手間を省くことによる省力化とリアルタイム性を実現しました。
      こうした活動により実現した仕組みが、図2-2となります。
  4. 図2-2 納期変更業務(改善後)<図2-2 納期変更業務(改善後)> 

    • このように、情報の5S活動を踏まえたシステム化を行いことにより、部門間の情報のスループットの増大と各部門の生産性向上が実現できました。ただし、システムとしては課題も残り、例えばExcelは、大変扱い易くデータ構造も柔軟に構築できるツールですが、リアルタイムのファイル共有やセキュリティの担保、データの正確性・可用性の確保においては十分ではないので、Excel様式のデータ構造の柔軟性は維持しつつ、これらの弱点をカバーできる管理ツールの導入が今後の課題となっています。

改善例②

  • 改善例①の次のステップとして、サプライチェーンにおける横展開を行い、購買部門から外注先にコミュニケーションの対象を広げました。加工外注に対する見積依頼・回答、希望納期・納期回答・調整、材料支給予定・支給日程調整、納入予定から各メッセージに対する変更対応のための調整連絡など、改善例①と同じ仕組みで運用しました。生産管理システムと連携した発注、検収などの情報交換は、EDIやWeb-EDIなどのシステムが使われますが、前述のような多様なメッセージを柔軟に交換できる仕組みではない点と投資効果を評価し、改善例①のExcel共有ベースの仕組みで実現しました。ただし、先の課題のとおり不特定多数の社外も含むシステムとなると、Excel共有ではあまりにセキュリティが確保できないため、子会社やグループ企業、100%下請け企業などの場合に限定しています。

  • サプライチェーン改善に必要とされるシステム

    • このような改善を実現するために必要とされるシステムとしは、各部門の情報を互いに共有できるシステムやネットワークインフラはもとより、設計データ、技術情報、営業情報、生産管理情報、在庫やサプライヤ情報などを、それぞれ必要なタイミングで公開、通知する必要があり、従来はPDMやERPパッケージ、グループウェアがこうした役割を果たしてきました。しかし、こうしたシステムでは、日本の製造業の間接部門の業務、特に設計・試作段階のすり合わせや量産における細かい仕様変更、頻繁な納期変更のような緊密なコミュニケーションには不向きです。これまで述べてきたようなシステム要件は、ERPパッケージなども運用しつつ、補完的に前述の改善例のようなExcelファイルの共有やEAIツールで実現したり、企業としてコアな業務の場合は、個別開発という形で実現してきましたが、昨今では、こうした要件のかなりの部分をカバーし、かつコストパフォーマンスにも優れたシステムとして、Business-b-ridgeが提供されてきました。

まとめ

  • SCMの1つの手法として、情報の5Sに基づく改善活動は、部門間や企業間の情報の整理・整頓と共有を実現し、コミュニケーション効率を改善します。これに伴い、管理の対象である物のスループットも向上し、さらに顧客要望の変化に対する柔軟な対応も可能となります。

    ここまで、3回に渡り「5S」をテーマにお話してきました。5Sは、製造現場のムリ・ムダ・ムラを無くし、品質や生産性を向上させるだけでなく、間接部門の業務の効率化も実現します。そして、この5Sの中でも重要なポイントは、「清潔」と「しつけ」です。活動を習慣化して、きちんとPDCAを回し、一過性に終わらず継続的な改善を行うことにより、人も組織も成長し、市場変化に強いしなやかな企業体質が実現できるのです。
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有賀 隆夫 氏
有賀 隆夫 氏
株式会社ITマネジメント
外資系コンピュータメーカー、国内SIerにて製造業を中心に国内外のERPパッケージのコンサルティング、導入プロジェクトのマネジメントに従事。独立後は、製造業の経営戦略策定から現場改善、システム導入まで一貫したコンサルティング、支援業務を実施。
企業の”儲かる仕組み”の実現に日々取り組んでいます。