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在庫適正化(その3):適正在庫を監視する仕組みづくりのポイント

適正在庫を監視するには、サプライチェーンに関わる各種の情報集めが必要で、その情報は、在庫情報、入庫予定情報、出庫予定情報の3つです。在庫情報は自社の情報ですが、入庫予定情報と出庫予定情報には、取引先から入手しないといけない情報が含まれています。適正在庫を監視する仕組みづくりにおいては、この情報をいかにタイムリーに入手できるかがカギになります


仕組み作りのポイント

適正在庫でない状態(過少在庫や過剰在庫)を監視する目線には、短期的(当月内などの確定期間内)と中期的(翌月以降)な2つがあります。タイムリーな監視が求められるのは短期的な監視です。一般的に短期的な監視の中心は「品切れ状態」の監視です。「品切れ状態」の監視とは欠品のことではありません。欠品は起きてしまった事象ですが、ここでのいう「品切れ状態の監視」とは欠品予防の監視のことです。
また、逆の過剰在庫の監視も必要ですが、品切れ状態の監視より緊急度が低いため、短期的な目線での監視ではなく、中期的な目線での監視において実施されている例が一般的です。
品切れ状態の監視に必要な情報は「当月中の将来在庫(今日以降の在庫)」です。しかし、当月中の将来在庫は簡単には求まりません。この将来在庫を求めるための仕組み作りのポイントについてお話しします。

今日以降の将来在庫を知るために必要な情報

    • 在庫情報
      在庫とは「出庫できる在庫」のことで、いわゆる未引当在庫のことです。実在する現在庫から出庫が確定している在庫情報を差し引いた在庫で、この在庫は将来在庫を求める場合の起点となります。
    • 入庫予定情報
      入庫予定とは自社工場・委託先・仕入先などの供給元からの入荷予定のことで、供給元を出荷して輸送中の入荷予定未出荷の入荷予定の2つがあります。
    • 出庫予定情報
      出庫予定には受注残や内示・引合情報といった顧客から提供された情報自社内の判断で作成した情報(販売予測など)の2つがあります。

情報集めのポイント1:在庫情報

「出庫できる在庫」を把握するためには、3つの情報が必要です。
1つは、現在庫といって物理的に存在している在庫で、倉庫管理システムなどで在庫を管理している場合は容易に把握できます。
2つ目の情報は引当済在庫といって、出庫することが決まっている論理的な在庫数で、受注残に対して出庫指示された在庫数などがこれにあたります。現在庫から引当済在庫を引いて求まる在庫情報は「未引当在庫」で将来の出庫に備える在庫になります。
3つ目の情報は、ロットごとの出荷期限情報です。製品には使用期限や賞味期限など品質保証期限のあるものがあります。品質保証期限の前だからといっても、顧客の手に渡ってからすぐ品質保証期限の来るような販売はできません。品質保証期限より一定期間前に出荷期限を設けています。
したがって、この出荷期限が来ると出荷できなくなり、今日まで有効であった在庫も出荷期限を過ぎる明日からは出荷できない在庫になってしまいます。つまり、これらの製品は、出荷期限を境に突然未引当在庫が0になるわけです。
将来在庫の把握において、このロットごとの出荷期限情報を把握し、計算に反映することが重要です。しかし、品目単位に受払計算するMRP(資材所要量計画:Material Requirements Planning)では計算できません。ロット単位で受払計算する機能が必要になります。

情報集めのポイント2:入庫予定情報

入庫予定情報には、そのデータ源泉の違う2種類の情報があります。
1つ目は「積送中の入庫予定情報」で、この源泉は供給元の工場などの出荷情報です。つまり、実績に基づく情報のため、輸送中のトラブル以外に予定の狂うことのない正確な情報です。供給元には自社工場と委託先や仕入先といった他社工場の2つがあります。供給元が自社工場であればこの入荷予定情報を入手することは容易です。
しかし、他企業からの入庫予定情報の入手は、企業間連携の基盤がないと困難です。この場合は、情報をEメール等で連携になり、情報入手はバッチ的になり、タイムリーな適正在庫監視には適しません。
もう1つは「未出荷の入庫予定情報」で、この情報の入手でも企業間連携の基盤は必要です。しかし、この情報の場合は情報連携の基盤だけではだめで、供給側の正確な出荷予定の把握も必要です。この出荷予定情報は生産予定に基づくものであるため、生産予定が確定していないと不確定な情報となってしまいます。一般的に、提供可能な生産予定は1~2週間程度で、それより先の計画は変更になる可能性の高いものです。
したがって、供給側に生産計画を常に維持する業務運用とその情報基盤が必要になります。

情報集めのポイント3:出庫予定情報

出荷予定情報の源泉には次の2つがあります。
1つは、顧客から提供される受注や内示といった情報です。この情報も企業間連携の情報です。そのため、企業間の情報連携基盤が必要です。もう1つは、自社で独自に決める需要予測情報です。後者の製品は受注即出荷が求められる製品で、販売予測の主たる情報源泉は販売実績です。
中期的な目線であれば出荷予定情報は月次単位で十分です。この場合なら、受注情報も内示情報、また販売予測も月単位の数量の把握は可能です。しかし、短期的な目線における情報メッシュは日単位が求められます。
受注情報は一般的に日単位で出庫日と出庫数が決まっています。しかし、内示情報は一定期間幅(週や旬、月など)の数量が示されているものが一般的なため、将来在庫の予測は内示の期間(月、旬や週など)に合わせて行うか、逆に内示や予測を日単位での予測値に変えて行うかです。月単位での計算か、日単位で計算かは、出荷期限が月単位か日単位かに影響されます。
日単位の値を求める際に、月レベルでの予測と同じ方法での予測は困難です。予測での値の精度は月単位の数量が一般的です。
したがって、予測は月の値までで、日単位はその月の値を案分して求めます。案分においては、過去実績から需要の傾向を分析して決めます。月の需要予測では値を直接予測しますが、日の場合は数量から日単位の割合を求めます。

(事例)

      • 旬による違いにより係数化
      • 月の開始曜日による違いパターン化(月曜日スタートパターンなど)
      • 長期連休の前後、期末期初などの影響(長期連休前後の係数化など)

在庫情報、入庫情報、出庫情報が揃えば、あとは将来在庫を求めることになります。将来在庫が求まれば、それが適正在庫の範囲であるか、過少または過剰在庫かの判断は容易になります。

 

適正在庫から外れた場合の対応力のポイント

適正在庫から外れるとは、過少在庫か過剰在庫になることですが、短期的な目線で必要なのは欠品リスクのある過少在庫です。過少在庫の可能性が発見された場合、可能な対応は供給の前倒しです。しかし、供給ロットサイズが需要に比べて大きいと供給頻度が低くなり、次の供給予定が直近にありません。それでは供給前倒しができず欠品を発生させてしまいます。
したがって、供給の前倒しで調整を可能にするためには、供給ロットサイズを月の出荷予定量の半分以下であることで、これにより供給回数は月に2回以上になり、需要の変動に対応することが容易になります。

 

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適正在庫の考え方とその監視の仕組みづくり
サプライチェーンにおける在庫の適正化とは、必要な時に必要な分だけの在庫を維持することです。
この在庫適正化の実現において、一度は議論されるテーマが「需要予測の精度向上」です。
しかし、予測の精度だけでは在庫適正化は実現できません。最も重要なのは、需要との同期化を目指した供給改善と適正在庫の自動監視システムの構築です。

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清水 秀樹
清水 秀樹
ビジネスエンジニアリング株式会社
日本生産管理学会学会員
著書:「基礎から学ぶ生産管理システム」(日経BP)、「実践!システムドキュメント徹底活用」(翔泳社)、「実践!コミュニケーションキュメント徹底活用」(翔泳社)、工場管理(日刊工業新聞社)、機械技術(日刊工業新聞社)、の特集記事執筆など